人をほめるのは簡単ではありません。昨日のセミナーでも「ほめるのは難しいよね」
という話しになりました。あるリーダーは、「私は部下をほめたことがありません」と断言しました。他の多くの方も同意していましたから、「職場でほめる」のは、まれなのかもしれません。
でも、この「ほめる」が、カレンシーとして効くんですね。
(ほめる、の効用) 私たちは、影響力のメカニズムを「カレンシーの交換」と考えて、プロジェクト運営に応用しようとしています。 つまり、
「リーダーであるあなたが、メンバーが価値を感じる何か(これをカレンシーと呼びます)を渡す
→ あなたからカレンシーを受け取ったメンバーは、「ありがたい」と思う
→ メンバーはあなたにお返ししなければならない、と感じる
→ あなたはメンバーの力を引き出せる」というプロセスです。
ここでは、お互いに価値あるカレンシーを交換して、仕事を前に進めているというわけです。 このカレンシーの交換は、自然に意識しないでやっていますから、まずは現実がどうなっているか、チェックしてみましょう。
一般的に「ほめる」のは、強化と呼ばれる作用につながると考えられています。つまり、
「ほめられた
→ あ、これでいいんだ、と気づく
→ 繰り返す」というステップです。
また、ほめられることで、リーダーに認められたという感覚をもたらすこともできます。認められると安心するのは、ほとんどのメンバーにとって共通です。
リーダーであるみなさんと、メンバーとの信頼関係を築くうえでも大切でしょう。 これに加えて、私たちは「ほめる」をメンバーが価値を感じるカレンシーと考えます。ほめられたメンバーにとって、「嬉しい」「ありがたい」と感じることなのです。
実際、次のようなメンバーにとっては、ほめられることが、特に大きなカレンシーとなるでしょう。
1 自信がない。自分の仕事ぶり、技術に自信がない。だからほめられると安心するようなメンバー。しばしば、自信たっぷりに見えるものの、本心は心配していることがあります。たとえば、自分の技術そのものには自信があるが、このプロジェクトにあっているかどうかがわからない、ということはよくおこります。
2 本人の予想以上にハードワークしている。内心「なんでこんなにやらなきゃならないんだよ」などと思っているメンバー。これはメンバーの心の中でハードと思っているかどうかです。リーダーが見てハードかではありません。
3 自分はチームに貢献している、と思っているメンバー。例えば、他のメンバーを助けているようなとき、他のメンバーがもっていない専門知識を使ったとき、このプロジェクトのために新たに勉強したり、試行錯誤したとき、など。
大事なことは、タイミングです。 すっかり自信喪失してしまってからでは、ほめられても耳に入らないでしょう。「これでいいのかな」という顔をしているときに、うまくいったらほめてあげればいいのです。
また、なるべく具体的によかった点を褒めてあげた方がいい、とも言われています。
いずれにしても、表情を見ながら「相手の心を動かせたかな」とチェックしましょう。ほめるのは、ほめること自体に価値あるのではなく、メンバーの心に届いて初めて価値があるのです。ちょっとでも顔がほころんだと思ったら、そのままカレンシーを貯めておくとよいでしょう(即座に何かを頼んだりすれば、あまりにもわざとらしいですよね)。それがメンバーのやる気になるし、やがて、無理をお願いしたいときに受け入れてもらいやすくなるのです。ですから、結果的にほめ上手な人は、協力が得られやすい。私はリーダーはどんどんほめてしまったらいいと思います。
(ところが、ほめるのは難しい・・・) とはいえ、先述のようにみなさんあまり人をほめない。なぜか。いろいろな理由が考えられますが、私は相手に対する嫉妬心のようなものがあると思っています。
先日女性ばかりの職場のリーダーたちとこの話しをしていました。嫉妬心はないか?と尋ねたところ、とても正直なリーダーの方が、「私が彼女をほめないのは、嫉妬心があるから。いわれて気づきました」と答えました。彼女の方が売れる、お客さんの評判がいい、かわいい、など、嫉妬を覚える理由なんてたくさんあります。
このような話は、エンジニアの世界にもないとは思えません。彼の方が技術力がある、彼女はお客さんの受けがいい、など。そう思うとなかなかほめられない。これは、とても自然な気持ちの働きだと思います。でもリーダーとして、メンバーの力を引き出すチャンスを失っていることも確かなのです。それは残念だな。どうしましょうか?
私はまず、リーダーはいちエンジニアとは違う、としっかり認識することから始めたいと思います。エンジニアは技術力で仕事している。だから、自分もエンジニアだと思っていると、メンバーと技術で勝負したくなってしまう。しかし、リーダーは役割が違います。リーダーはメンバーの技術力を結集して勝負しているんです。ですから、いち技術者としてすぐれているかどうかは、メンバーの時ほど問われません。むしろ、プロジェクト全体とかマネジメント能力、さらにはお客様のビジネスを理解していることの方が重要です。メンバーと同じ土俵で勝負してはいけないのです。
次に、メンバーをほめることができないときに、「いま、嫉妬心が湧いているかもしれない」と考えましょう。ほめられないのは、仕方ないです。エンジニアとして枯れていない証拠です。それもいいじゃないですか。「自分にはほめられない」と思ったら、クールに相手を持ち上げましょう。「何がよかったの?」と具体的に訊いてあげると、それだけで本人は自信を持てるようになるものです。「みんなにも教えてあげてよ」などというのも、直接ほめていないものの、自信を持たせるカレンシーになります。
リーダーがメンバーをほめるだけでなく、メンバー同士がほめあうようになると、強いチームができます。これは「カレンシーの交換」から見て当然です。「ほめる」とビジネス上の情報、技術情報が交換されて、メンバー全体がレベルアップしていくからです。職場やリーダーをみれば、情報共有されているかどうか、見当がつくのはこういう理由からです。こんど大学の授業で「ほめ、ほめアワー」をやります。クラスメート同士でほめあわせるのです。これだけでクラスも活気づきますから、きっとみなさんのチームにも役立ちますよ!
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